豊饒 海と美

 

 

さしもの貴方でさえ
芳香極まる美の恩恵に
胸焼け起こし
俯向いてしまう

何が彼を追い立てる
何が貴方を魅入らせる

美だ美だ
…美だと?

絶望の奥底に潜む
砂のひと粒
貴方の美は
それにしか過ぎぬ
怯え怯えそして陶酔


鍛えに鍛えて
脆く崩れ落ちる
がんじがらめの骨の屑達
それは白々しく嗤う

薄っぺらの皮膚と
巧くはめ込んだ眼球
所詮それらだ
あなたの賛美する美しさは

そんなものには
惑わされない
私の美は何処にある

魂よりもまばゆく
永遠よりも長く
太陽よりも微か

姿を現せ
私の思い願う美よ

その言葉の羅列に
潜んでいるまでもない

目には見えぬ
けして見えぬ
見えてしまう程愚かではない