忘却の恋

 

ひたむきに
焦がれた夜もあったのに

……もうとうに通り過ぎてしまった。

今はいずこ
忘れた感情を探しに
幾夜も
夢を彷徨いに出かける

恋は短く
慕情は儚く
貴方の面影は
秋の日長い影のよに
焦げたアスファルト
ひたすらに伸び

ふと目覚めた
深夜の枕元で
忘れたはずの思い出に
掻き回される

もうとうに記憶の彼方
さあ
瞼を閉じ
忘却の眠りにもう一度

やがて
何も知らぬ存ぜぬの朝が
あの日の確かな恋を
亡き者にしてしまうのだろう


…忘れたくはなかった。

酩酊

 

 

言葉に溺れゆく
歌に浸り沈む
舞に砕け散る

やがて  と
貴方は言う
もしくは
すべて  と

もう一度二度
振り返り振り返り
貴方が
こちらを向かないの
分かっていても
それでも  尚

歩を止めて
風になびく髪を
その
その肩を腰を
貴方という
物体を

いずれ消えゆく姿でも
痛いほどに
目の裏に焼き付けた

もう

去ってゆく

残酷

 

 

右斜めに俯き
静かに放った一言が
そんなにも
君を傷つけたのか


僕は知らなかった


下手をすると
へらりと
気安く笑いながら
舐めた口調をするところだった


もう遅いね
ごめんね。


…なんて言っても届かない

君は秒の速さで
遥か彼方に
去っていった
君の現し身だけを
目の前に残して


泣かれるよりも
残酷だ
君は今  どのあたりで
心を打ち砕いている

済まない、と
何百回謝っても
君はもう聞く耳もたない


「元気でいてね」
嘘だらけの笑みで
君の瞳は凍りつき
二度と僕を
許すことはないのだろう

やがて時は来る

 

 

経ってしまった長い年月が
きみを責める
柔らかいシフォンのリボンで
甘噛みのように
ぐるぐる巻きにされ
飼い殺しの如く
中途半端に見動ける苦痛

逃げないし目を瞑らない
だけどこの手は
燃えさかる炎の中

忍び泣き
足元に溜まる涙の渦

すべて錯覚さ
今までの苦悩  皆
いくら望んでも
時は巻き戻らない

やがて枯れ果てた地の底から
ひょろりと一輪が咲き誇るだろう

解離現わる

 

 

久方振りに
解離のやつ  夜中に現わる

また来おったか
もう絶滅種かと思ったのに
そちもなかなかにしぶといの

耳鳴りやかまし
ブレインフォグ逞しく
体固まるが如く

はいはい分かった
じきに
我がバスターズやって来るけん
早く逃げるがよい

野良の犬追い立てるかのよに
一斉に はやし立てるので
あんたら
ほんと早く逃げなさい

流石にわたしも

ことごとく
負けてはいられんのだ

19の夜に

 

 

あの日の私は
まだ未成年だったよね?
あなたは私の
中学時代の副担任
夜更けまで飲み屋に引っ張り回して
気弱な私は
「もう帰ります」の一言が言えなくて

へろへろに酔い潰れたあなたは
地べたに突っ伏し  終電逃し
仕方がなくて
泊まれるピンクの部屋に運んだよ

ドアを閉めたら
力ずく  襲いかかってきた
え?さっきまで寝てたじゃん
嘘だったの?芝居して騙したの?

腕をはらい顔を殴り
でもかぶさってくる
やめろ 汚い教師
叫びたくても声が出ない
逃げたい  助けて
やめてやめてやめろ

力尽きて
何もかも諦めた
観念して 横たわる
こうすればいいんでしょ
豚のような男

忘れないよあの時のこと
今でも悔しくて
怒りに身が震える

絶対に許さないよ
あんたのこと
今でも訴えられるなら
高らかに声上げるよ
このクズ教師

そろそろ死んでる頃かな
早く死んでほしいな

「合意の上」なんて
一体どの口が言うんだ

総てを忘れてしまうのだろう

 

 

ひとたび眠れば
この苦悶すら消えてしまう

消えるな消すな
苦悩の海でひたすら漂え
果てまで続く
涙とため息の波に溺れろ

安らかな眠りなぞ
嫌悪して蹴散らせ
いついつまでも
今の自分でいたいなら

そして
全知全能の神の如く
私はぶざまに寝付くのだろう

おそらく総てを

総てを忘れてしまうのだろう